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水門

庭の西南部分にコンクリート製のヒューム管の残骸がある。

2019年に千葉県で発生した台風の爪痕である。

放置林からのしぼり水を集めて下段の田んぼに集水するため先人が造った暗渠だったが、想定を超える豪雨は暗渠の集水量も超えたのだろう。

基礎もろとも地面をえぐり横転した当時のまま今日に至っていた。



土地を手に入れた後まずは水のみちをつくり始めたのは、この爪痕の印象が強烈だったからだ。

台風後約5年経過をしている現在、しぼり水は暗渠の瓦礫の隙間を縫うように自然の水みちをつくり下段の休耕田に流れている。


崩壊したヒューム管の隙間を縫うように自然は水みちをつくる
崩壊したヒューム管の隙間を縫うように自然は水みちをつくる

この地を入手した昨年も数回程豪雨はあったが、その水みちは問題無く機能していた。

自分にとってその光景は、堅牢なヒューム管の価値に疑問符をつけるに十分なものだった。

建築でも地震や暴風に対して建物を局所的に固めると、その部分に力が集中して被害を大きくしてしまうことがある。


さて庭の周囲の放置林との境界に溝を掘る「水のみち」が昨年末に完成したので、その出口にあたるこの爪痕部分に水門をつくることにした。

まずはヒューム管だが、かなりの重量があり撤去は容易なものではなかったが、同じ集落の仲間が重機で手伝ってくれた。

設置・撤去・処分、総てにおいて高額となるコンクリートは、今後ガラにして有効利用していく。


撤去後は自然がつくった水みちを埋め戻すことなく、さらに拡げ補強をしながら仕上げていくことにした。

そんな折にタイミングよく、友人の親御さんが永年かけて古民家で収集・保管をしていた木材を頂いたので、それを材料として用いた。


ヒューム管撤去後自然がつくった水みちを拡げていく
ヒューム管撤去後自然がつくった水みちを拡げていく

土の崩落が激しい部分を炭化杭と丸太で土留めを施し、勾配の緩い床部分は杭を打込み栗石で均して簡素だが補修が容易なものとした。




最後に放置林に渡る橋を架けて完成。

今後は暴風雨時の成り行きを見守ることになるが、少なくとも以前のような大事になることはないだろう。




天災により浸食された爪痕を消し去ることをせず遺したこの水門は、かつてこの地を襲った天災があったことの象徴としていきたい。

そして水門をくぐり抜けたしぼり水は下段の休耕田に流れ着き、田んぼが復興した暁には「めぐみの水」となるだろう。






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