地亭は南面を除く三面を山林に囲まれており、山からの雨水を南面の低地に展開する棚田に集めるなど、水はけを改善しながら果樹の生育に適した土地にすべく、土中環境の改善から着手する。
そこで家を建てるのは未だ先であるが、土地に手をいれる前に土地への挨拶を兼ねて祈りを捧げることにした。
祈りはアメリカインディアンの付き人の経歴をもつ友人にお願いした。
アメリカインディアンの話は彼を通じてたびたび知ることになるのだが、宗教的な儀礼に然程興味のない自分にも自然と染み入るものだった。
アメリカインディアンと言ってもそこには多くの部族があり、部族ごとに様式は異なるようだ。
友人が師事していた人はアメリカインディアンを代表する高名な方だったらしく、その流れをくむ彼の土地への祈りはラコタ族のものだった。
狩猟をしながら移動生活をする彼らは、新たな土地に移動するたびにその土地の精霊に対して祈りを捧げる。
ここで言う精霊とは特定の神を指すのではなく、自然や生き物などあらゆる神羅万象を指している。
その点において、我が国の八百万の神を崇める風習と似ているかもしれない。
精霊へのお供え物には普段食事をするものを供えるので、自分の畑で収穫した夏野菜と米、果物、酒。
そして精霊が一服するための巻煙草も添えた。
祈りの後は参加者皆で、お供えもので食事をする。
祈りはセージを焚き、西、北、東、南そして天と地の方角に向かいインディアンドラムを鳴らしつつラコタ語の唄をうたう。
ドラムの柔らかい音色が周囲の山林にこだまとなり響き、そこに蝉の合唱が混ざり合い、さながら土地全体が祈りをあげているようだった。
祈りの最後に「普段はやらないのだけど」と、彼が僕らのために自作の「祈りの言の葉」をつくり奏上してくれた。
印象深かったのは言の葉が書かれた紙にトンボが舞い降りて、祈りの間終始傍で舞っていたことだった。
アメリカインディアンの世界では、トンボは精霊の使いとされているそうな。
ワカンタンカ トゥンカシラ
偉大なひ祖父なる大宇宙よ
私は風の中にその声を聞き
その息吹はすべてのものに命を与えます
どうかお聞きください
今この地に私の友人が住まい暮らしていきます
願わくはどうか彼らをこの地のすべての繋がるものたちの仲間に迎えてくださるよう
そして教えと恵みを与えてくださるよう祈ります
どうか美の中を歩ませたまえ
彼らはこの地のお世話をします
そして平和と調和がもたされますよう祈ります
どうか聖なる輪の道を歩ませたまえ
ワカンタンカ トゥンカシラ
ピラマイエロー ピラマイエロー
チェキヤヨ
ホー ミタクエオヤシン
祈りを終えてひと段落の後、家が建つまでの看板代わりにと道祖神を据え置いた。
この道祖神は知人の石彫作家の作品であり、何となく僕ら夫婦に似ているので譲り受けたものである。
やがては苔むして風化をしながら地亭の隅に佇んで、僕らの暮らしを見守ってくれるだろう。
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