庭師の助言をもらいながら、庭づくりをこつこつ進めている。
既存の土地は以前棚田として使われていた計五段にわたる農地である。
庭づくりの主題は周囲の山林から集る水を棚田となっている休耕田(下段)に集めながら、果樹の生育と暮らしに適した大地(上段)となるように、「水のみち」をつくり「土中の環境」を整えるところにある。
以前は農業利用水を使用せず山林からの絞り水のみで田んぼをしていたようだが、高台の方は十分な水も貯まらず断念し以降は休耕田となっている。
果樹園と家を建てるのは四段目と五段目の土地(以降庭)である。
「水は高きより低きへ」
まず最初は庭と山林の際に溝を掘りながら三段目以降の休耕田に水を誘導すべく作業をしているが、すでに雨後はかなりの水が集まり流れているのがわかる。
この溝は暗渠のように最終的に埋めてしまうことはせず、小川のように溝の床面を水が流れ、所々で庭の地下水が湧いている状態になるよう施工した。
観察をしていると溝の側面の断層に小穴が増えていき、山林からの水以外にも庭の土中の空気や水もこの溝を出口に動いているのを感じる。
また三段目の休耕田の東側は、赤道を挟んで細長い形状の土地がある。
陽当たりも風の通りも悪くじめっとしている感じがあり、かなりぬかるんでいた。
聞くと数十年前は蓮田であったという。
そこでぬかるみを掘り起こして調整池とすることにした。
庭から溝を通して集った水は、神社の前を通りこの池に落水していく。
その後泥などをろ過しながら赤道を横断して、3段目以降の休耕田に流れていく。
いずれこの池にも多種多様な生態系が生まれ、上段の庭の水に対しても調整機能をもつと思う。
最終的に水のみちが完成した暁には、山林のしぼり水のみで休耕田を復興したいと思う。
印象的だったのはとりあえず溝の堀削を優先に堀削面を整えることを後回しにしていると、水は人為的に掘った部分に自然な形でさらなる己がみちをつくり流れていく。
そのみちこそが自然の流れだと思うが、そのみちを壊すことが無いように整えてまた観察をしながら手をいれる。
時間はかかるがこの上なく贅沢な学びをえた思いにもなる。
こうして土中の水や空気が動くようになれば、周囲の放置林にも影響がでるだろう。
現段階では境界付近の植生を整えているだけだが、植生の生気が増して滞っていた気が解消していくのを肌感覚で感じる。
放置林からの朽木やはらった枝葉や竹はすべて、庭を改善する材料として使われていくので無駄は無い。
田んぼ土のように或る時は土壁のためにさらなる粘りを求めて手間をかけ仕込み、或る時は植生や暮らしのために水はけをよくしようと土づくりをする。
同じ粘土相手にその土質に対して真逆の所作を行う人間都合がどう転んでいくのか。
重い粘土と向き合う日々は続いていく。